モータやパワートレインなど本物の機械は相互作用する一連の物理コンポーネントから成り立っており、一般的に、ブロックダイアグラムを使用してモデリングされます。2 つのブロックがラインで接続されている場合、これらは物理法則によって結ばれていることを示します。
ソフトウェアによるシミュレーションについて、ブロックダイアグラムは因果的または非因果的に分類することができます。多くのシミュレーションツールは因果的 (信号フロー) モデリングに限定されています。これらのツールでは、基本的に時変数値である単方向信号がブロックの方向に流れます。ブロックでは、信号に対し予め定義されている数学操作が実行され、結果はブロックの反対側から出力されます。このアプローチは、制御システムやデジタルフィルターなど信号が単方向にしか進まないモデリングシステムに適しています。
このアプローチは代入に似ており、右側で既知変数または変数集合に関する計算が行われ、結果が左側の別の変数に代入されます:
実際の物理コンポーネントがどのように相互作用するかをモデリングするには別のアプローチが必要です。非因果的モデリングでは、接続された 2 つのブロックからの信号は両方向に流れます。プログラミングでは、単純な等式に似ているといえます:
信号には、エネルギーや電流、回転力、熱流量、質量流など、どの (物理量) を保存する必要があるかなどの情報が含まれます。そしてブロックには、従う必要がある物理法則 (方程式) などの情報、つまり、保存する必要がある物理量が含まれます。
MapleSim では、両方のアプローチを使用することができます。例えば、関連するロジックとのシミュレーションには物理システムを非因果的モデリングで表し、制御ループのシミュレーションには因果的モデリングを使用するなど、実行するタスクに最適なアプローチを選択することができます。
Through 変数と Across 変数
非因果的モデリングアプローチを使用する場合、モデリングしているコンポーネントの「through」変数と「across」変数の確認が有効です。一般的に、across 変数はシステム内の原動力を表し、through 変数は保存量の流れを表します:
例えば、電子回路において through 変数 i は電流であり、across 変数 V は電圧降下です:
下の表は、他のドメインにおける through 変数と across 変数の例です:
ドメイン
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Through
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Across
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電気
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電流 (A)
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電圧 (V)
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磁気
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磁束 (Wb)
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起磁力 (A)
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メカニカル (平行移動)
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力 (N)
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速度 (m/s)
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メカニカル (回転)
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トルク (N.m)
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角速度 (rad/s)
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水力
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流量 (/s)
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圧力 (N/)
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熱流量
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熱流量 (W)
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温度 (K)
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簡単な例を挙げると、抵抗の支配方程式は以下のように表されます。
上記方程式に Kirchhoff の電流保存の法則を組み合わせると、回路を完全に表現することができます。
and
この例を拡張した下の回路図は、resistor (抵抗)、inductor (コイル) と capacitor (コンデンサ) が直列に接続された電気回路、RLC 回路です:
この回路を手動でモデリングする場合、抵抗、コイル、およびコンデンサはそれぞれ以下の特性方程式で表すことができます:
Kirchhoff の法則を適用すると、それぞれポイント a、ポイント b、ポイント c について以下の保存方程式が成り立ちます:
これらの方程式を、入力電圧の定義 (シミュレーションを開始して 1 秒後に 0 ボルトから 1 ボルトへ変動と定義) と合わせると、以下の式になります。
この式からは、モデルを定義し、回路を流れる電流と電圧を求めるために十分な情報が得られます。
MapleSim では、これらの計算がすべて自動的に行われます。つまり、ユーザは回路を描き、コンポーネントのパラメータを指定するだけで十分です。この原則は、MapleSim における全エンジニアリングドメインにおいて同じように適用され、あるドメインのコンポーネントを簡単に別のドメインのコンポーネントと接続することができます。
本章の基本チュートリアル:RLC 回路と DC Motor のモデリングで上記 RLC 回路を実際にモデリングします。下の図は、MapleSim で作成される RLC 回路図を表します。